新制度への地方の不安
2024年から、技能実習制度に代わり、条件付きながら1年超で転職可能な、「育成就労」制度が始まります。新制度に不安を募らせているのが、地方の中小企業や自治体です。賃金などの競争では、大都市に勝てず、人材の流出が懸念されるからです。
そうした地方の不安を取り上げた、鹿児島県の地方紙の記事をご紹介します。
外国人寮も建て「3年大事に育てたのに…」 技能実習終えた18人中、半数超は県外へ 地方の受け入れ先、新制度案に尽きない不安
連載「揺れる実習制度 かごしま事情」㊤ 南日本新聞2023/12/27
少子高齢化で日本人の労働力人口は減り続けている。賃金で都市部に劣る地方ほど顕著で、外国人技能実習生らが地域の産業を支えてきた。その外国人材の受け入れ制度が転換期を迎えている。鹿児島県内 定着に取り組む現場の声を聞いた。
鹿児島県の食品製造会社では、人手不足解消のために技能実習生18人を受け入れてきた。しかし、3年の実習期間を終えて特定技能に移行した実習生の半数以上が県外の職場に移ってしまった。
実習生たちは、交流サイト(SNS)で他地域の実習生とつながり、都市部では最低賃金が高く深夜割り増しも多いという情報を共有していた。
社長は、技能や日本語能力に応じ時給アップやボーナス支給を取り入れたが、それでも不安は尽きない。
指宿市のかつお節業者では、入国したばかりのインドネシア人実習生に日本語を教えている。しかし、転籍条件に一定の技能と日本語能力の試験合格が求められることから、村岡事務局長は「仕事や日本語を教えるほど、都会に流れてしまうのではないか」と不安を抱いている。
政府は、現行の技能実習制度を廃止し、転籍制限を緩和した新制度を創設する方針だ。これに対し、地方の中小企業からは「人材流出につながる」との懸念の声が上がっている。
地方の外国人材流出を止める秘策は…「都会体験」? 技能実習後も9割以上が働くJAの狙いとは
連載「揺れる実習制度 かごしま事情」㊥ 南日本新聞2023/12/28
鹿児島県のさつま町では、技能実習生らが積極的に受け入れられている。町は日本語講師や通訳の旅費、会合経費の補助などを行い、定着を後押ししている。
しかし、技能実習制度には、職場での不適切な処遇や、特定技能取得後の転籍による人材流出などの課題がある。
留学生として来日し、永住権を持つベトナム人のグェン・ヴァン・タンさん(34)は、鹿児島市の特定技能登録支援機関で、実習生らの通訳や世話に当たる。受け入れ企業や監理団体に恵まれず帰国する同胞を何人も見てきた。「特定技能となり都会へ出たが、高い家賃や人間関係が嫌になり元の実習先に戻る人もいる。待遇を改善すれば失踪や転籍は減らせる」と話す。
16年から技能実習制度を活用するJA鹿児島きもつき(鹿屋市)では、3年の実習後も9割以上が働き続け、現在は特定技能11人を含む45人が在籍する。
流出を止める要因の一つが、実習期間中に行う地下鉄の乗り方やテーマパークで遊ぶ都会の生活体験。園芸農産部技能研修サポート課の中村昌信課長(49)は「都会の生活費の高さを肌身で知ってもらう」と狙いを明かす。きもつきでは、実習期間中に都会の生活体験を行うことで、生活費の高さを知らせ、流出を防いでいる。
垂水市では、地域おこし協力隊を活用して、住民と実習生の相互理解を深める取り組みを進めている。
外国人人材の地方から都会への流出には、主に3つの原因があると考えられます。
1.より高い時間賃金、手取り月収を求める外国人側のニーズ
2.受け入れ企業や監理団体(旧技能実習の場合)、登録支援機関(特定技能の場合)の不当な待遇
3.気候(温暖な気候の国から来た外国人人材は、日本の寒冷地を嫌う傾向がある)
このうち、1については、鹿児島きもつき市の例のように、月収から家賃や生活費を引いた実質手取りでいうと、都会が必ずしも有利ではないことを、もっと外国人人材へ啓蒙していく必要があります。
2については、監理団体や登録支援機関が、十分な仕事をしていないのに高額な報酬を取るため、企業側がそのしわ寄せを人材の不当な待遇につなげるという、悪循環が見られます。今後、国の監督はより厳しくなっていくと思われますが、自治体も他人事に思わないで、共生政策の中に、企業も取り込んでいく姿勢が望まれます。
3については、どうしようもない・・・とも思われますが、日本人移住者を呼び込もうと考えている自治体ならば、寒冷地のデメリットをメリットに変える方策も持っているでしょう。そういう視点で、外国人人材にも対応することが重要です。